あなたには、お気に入りのごはん屋さんはありますか?
お気に入り、と言っても理由はさまざま。
味が美味しい、雰囲気がいい、店の人が好き、値段がお手頃、盛りがいい、特別美味しいわけでもないけどクセになる、便利な場所にあるetc…
十人十色、いろんな理由があると思います。
私にもお気に入りのお店があります。一つや二つじゃないですよ。たくさんあります。
そのどれもに、それぞれの理由があります。お店によってもお気に入りポイントは違います。
そのなかに、生まれ育った街の、狭い路地裏の、小さな小さな中華屋さんがあります。
「中華屋さん」って不思議だと思いませんか?
決して「中華料理屋」でも「定食屋」でも「食堂」でも、そして「ラーメン屋」でもないんですよ。
エビチリとか回鍋肉とかはなくて、ラーメン数種類にチャーハン、あれば餃子。ちょっとしたおつまみがあって、ビールは瓶ビール。
もちろん置いてある店には、酢豚とか麻婆豆腐、天津飯とかもあるけどね。
なくったって堂々としている、あの「中華屋さん」という雰囲気。
独特の空気がとても心地よくて、それがこじんまりとしたお店だと、さらに良い。
そこに、個人経営ならではの《らしさ》が垣間見えると、嬉しいような、なんともいえない気持ちになる、あの感じ。
そんなお店は、大概お気に入りになっていきます。
さて、話は狭い路地裏に戻って、その小さな中華屋さんに入ると、ご主人の娘さんが人懐っこい笑顔と明るい声で迎えてくれます。
この店は、私が子どもの頃から家族で通っていたお店。ご主人の家族で営むお店です。もともとは父のお気に入りだったんでしょう。ご主人も父を見ると挨拶をしていました。
中学生の頃は、部活の大きな大会があると、そこでコーチや保護者も含め、みんなで500円の中華そばを食べながら反省会がお決まりコースでした。
この店の看板メニューは独特の和風のだしが効いた、あんかけスープのラーメン。
でも、小さい頃の私は、和風だしの美味しさもわからず、いつまでも冷めないあんかけの熱さも苦手で、ワンタンを食べていました。
地元を離れてからも、帰省する度、とは言わないけれど、懐かしくなれば行っていました。
その頃には、その看板メニューの美味しさも覚え、行ったことないという友人がいれば連れて行くほど、すっかりファンになっていました。
唯一無二のそのラーメンの味は、私にとっては大人の味で、けれどもそのお店は、小さい頃から変わらない思い出の店でもあります。
やさしい味です。
ご主人とご家族の、あったかい雰囲気が、お店の空気やお料理の味の決め手だったと思います。
そんなお店のご主人が、先日亡くなられたという知らせを耳にしました。
確かに、以前より営業時間は大幅に短くなり、メニューも昔より減っていました。
それでも、行けばいつも賑わっていたし、人気メニューは売り切れることもあったくらい。
本当に長年、愛されてきたお店だったから、なんだか勝手に、いつでも、いつまでも食べられると思っているんですよね。
そんなことはありえないって、わかっているはずなんですけどね。
お店がこれから再開されるのか、それとも閉めてしまうのかはわかりません。
それでも。
居心地のいい場所、馴染みの顔、安心する味、、、そこに一つの区切りがつけられたことは間違いありません。
ご主人が、厨房の、あの大きな鍋の前に立つことは、もうないんだなと思うと本当に寂しいです。
飲食店を経営するというのは本当に難しいことだと思います。
ましてや、長い間続けるというのは、さらに難しく、生き残れるのは限られたお店だけ。
なんとなく気に入って、たまーに来ていただけなのに、気づけば長年の常連になってしまった人もいるでしょう。
地元を離れても、ふと懐かしくなってふらっと来る人もいたでしょう。
親に連れられてきていた子が親になり、今度は自分の子どもを連れて来た人もいるでしょう。
長い間、お店をやってきたというのは、それだけ愛されていたという何よりの証拠ですよね。
そして、その間ずっと厨房に立ち続けたということでもあります。
悲しいけれど、それよりも、なによりも、長い間、お疲れ様でした。
あなたにも、お気に入りのお店はありますか?
「また今度行こう」の《今度》は、すぐそこにあるようで、二度とやってこないかもしれません。
だから行きまくれ!って話じゃないですよ?
《お気に入り》って思えることは多いほうが楽しい。
でも、それらを丁寧に、大切にしていくことが、当たり前のようで、案外気づきにくくて、難しいものだよね。って話です。
人間関係も、なんだかそんなところがあったりしてね。
おしまい。
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