着物と煙草と昔の恋。

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この頃は、洋服より和服を選んだりコーディネートする方が断然楽しいくらいには和服派になってきているけれど、着ていてもなお、ネックになる部分というのはある。

そのひとつが、手入れの面倒さ。

とはいえ、それがネックだったからこそ、自分で洗える素材の着物や、たとえ汚しても罪悪感が少なくて済む非常に安価で手に入るリユース(リサイクル)着物と出会えて、気軽に着るようになれたわけなんだけどね。

それでも、いくら安く手に入れたものでも、気に入って購入しているし、これを仕立てた誰かにとっては宝物だったに違いないから、大切に着ている。

自分で洗えるといえば、ポリエステルを筆頭に、綿やウールがあって、それらは洋服にも多く使われている通り、デイリーに使いやすく軽くて着心地もいい。

でも、洋服でもシルクが高級なように、和服でも正絹の肌触りはやっぱり特別感がある。

要は、単純に好きなんです。正絹が。一番お手入れが面倒といわれている正絹が。

とはいえ正絹の自己管理は素人にはハードル激高なので、着るシーンは自分なりに選んでいるんだけど、先日ひょんなことから正絹を着たまま飲みに出かけることになって。

基本的にお酒の席に着物で出かけるときは、自分で洗えるものを選んでいる。

なぜなら煙草のニオイがつくことが十分に想定の範囲内だから。

別に、煙草を吸っている人を批判するつもりもないし、お酒の席に出かけておいて煙草の煙に顔をしかめるつもりもない。

自分が好きな格好をするなら、ニオイがついても手入れができるものにすればいいだけの話。

ところがその日は、予定に無かったことだったから正絹を着ていた。

実際とてもたのしく過ごしたけれど、煙草のニオイが全然取れない。部屋に干していると部屋中が煙草のニオイで満ちている。

結局数日たってもニオイは取れず、曇りの午前中にしばらく外に干しておいてようやく落ち着いた。すごいぞ自然の風!

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ここまで書くと、極度の煙草嫌いに感じるかもしれないけれど、実際、個人的な好みで言えば、着物で煙草をふかしている姿なんて、色気があってカッコイイと思っている。

自分が喫煙者だったら、着物でガンガン吸っていた気さえする。

まあでも時代の影響は大きくあると思うんだよね。

昔の映画なんか見ていると、男女問わず、煙草を堂々と、かっこよく、そして飲みものを口に運ぶくらいナチュラルに嗜んでいる姿に惚れ惚れする。

今に比べるとだいぶ画素数の少ないザラっとしたスクリーンが、煙草の煙でさらにぼやけていく中、その奥に映る往年のスターたちの妖艶な表情に、当時まだ生まれてもいない私がドキっとする。

そう思うと、いまやどこに行っても「喫煙所」とデカデカと書かれた小部屋にぎゅうぎゅうと押し込まれ、肩を丸くして申し訳なさそうに吸わなければならない時代は、非喫煙者でありながらなんとも切ない。

煙草を推奨するわけではないけれど、ここまで煙草が煙たがられるようになるまでは、「煙草の美学」のようなものが確かにあったと思うんだ。

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そして私は、いつから煙草のニオイが苦手になったんだろう。

学生の頃、少し年上の人と付き合っていた。彼は煙草を吸っていた。

私は未成年だったし、煙草にさほど興味もなかったけれど、家族も誰も吸っていなかった私にとって「煙草のニオイ=彼」だった。

厳密に言うと、彼はお香が好きだったので(というか時代的に流行っていた)、お香と煙草の煙が混ざったニオイが彼を象徴するものだった。

だから、煙草のニオイは好きだった。彼の煙草臭い服も。

ああ、そうか。

大学生になって、よくよく遊んでいた友だちが全員ヘビースモーカーで。

よく、そのうちの1人の5畳程度の部屋に5.6人で集まっては朝まで遊んでいたけれど、私以外ヘビースモーカーだったから、常時部屋は煙で充満していた。
灰皿はいつも山盛りだった。

私はずっと臓器提供をしようと思っていたけれど、あの時にぼんやりと「私の肺は終わったな」と思ったんだった。

そこで一生分の煙草を吸ってしまった気になった。

あれから、人が煙草臭いのは構わないけど、自分が煙草臭いのはものすごく嫌になったんだ。

だけど、煙草とお香が混ざった彼のニオイは、あの頃世界で一番いいニオイだと思っていたな。

今では最高に不快に感じる髪に移った煙草のニオイを、あの頃は嬉しく思っていた。

そんな過去の自分が最高にいじらしく、可愛らしくて愛おしい。

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正絹の着物を着て、飲みに出かけた日。

私の方に煙草の煙が流れてくるのを私よりも気にして、さりげなく手をパタパタさせて煙を飛ばしてくれたノンスモーカーの夫。
いたって真剣に、でも吸っている人には気を遣いながらの、さりげないような、あからさまなような仕草がかなり面白い。

そんなことしてもニオイは付くし、あんまり意味はないんだけど、そんな夫が最高にいじらしく、可愛らしくて愛おしい。

楽しみつつも、ちょっと憂鬱だった私を、なんとほっこり笑わせてくれたことか。

煙草のニオイといえば、昔の彼を思い起こさせるものだったけど、これからは、私よりも私のことを気に掛ける人のことを思うものになるんだろう。

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