寒い冬の日。
ふと「この辺に、花屋さんあるかなあ」と言って、すこし歩いて見つけた花屋で、彼女は数本だけの華奢な花束を買った。
それから、細かい雪が、強い風にのってピシピシと打ち付けるなか、堤防を降りて、川の石場を歩いて中洲の先に向かった。
彼女は何も言わず、けれど明らかに意味ありげに、花屋のロゴが入った簡素な包装をはがし、茎を束ねていた輪ゴムを解いて、バラバラになった花を川に流した。
しばらく眺めていたあと、さっと両手を顔の前で合わせて、「うん、ありがとう」と言ってまた歩き出した。
手には包装紙が小さくまとめられている。
それからしばらく、これまた意味ありげに口数は少なく、意味ありげにぽつりぽつりとたわいもないことを言っては、また黙った。
お昼ごはんを食べようと近くの駅ビルに入って、ピークタイムを過ぎた平日の人気のない飲食店が並ぶフロアを2周し、お手軽でも高級でもない中華料理のお店に入った。
賑わいが去った店内で、またなんとなくしゃべることもなく、黙ったままお冷を飲んでいると、ピークタイムを過ぎたテンションで、店員が「お待たせしましたぁ~」と料理を置いていく。
それから、特に美味しくもまずくもない、限りなく普通を極めたような料理を食べて、店を出て、ガラス張りの通路の一角にあるベンチに腰掛ける。
窓の外には、さっきまで歩いていた川原が見えた。
そしてまた彼女は、意味ありげに窓の外をぼうっと眺めている。
一向に会話は弾まず、意味ありげに過ごす彼女のその意味を知ろうとも思わず。
前からそういうところがあった。でも、だからといって嫌だと思ったことはなかった。
今日はもう、何もない。
駅に向かう道のりで、品のよさそうなマダムや、見るからに高級そうな装いをした子連れ集団、優越感に満ちているペットをたくさん見かけた。
どうしてこの街に来たんだっけ。どうしてこの駅に降りたんだっけ。
どうして今日、会うことになったんだっけ。
全部がぼんやりとしたまま、のぼせるほどに温められた電車に乗り、彼女は乗り換え、帰っていった。
駅ビルで腰掛けたベンチは、ゾッとするほどヒンヤリしていた。
いまも、あの日のことを思うと、その冷たさだけが鮮明に蘇る。
メリークリスマス。
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